AML with t(8;21)(q22;q22.1);RUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO)
[概要]
8;21転座はAMLのFAB分類M2に多く検出される染色体異常として1973年にRowleyらにより初めて報告された。その後の分子生物学的検討により8q22に位置するRUNX1T1(ETO)遺伝子と21q22に位置するRUNX1(AML1)遺伝子が融合遺伝子を形成し、その翻訳蛋白が転写因子RUNX1とCBFBが形成する2量体(core-binding factor;CBF)の機能をdominant negativeに抑制することにより白血病発症に関わっていることが明らかになった。若年者に多く発症し、日本での発症頻度は欧米に比べ高いとされる。寛解率が高く、予後は比較的良好である。
[症例1]
4歳、男児。受診7日前より顔色不良が出現。2日前より紫斑を認めるようになった。既往歴、家族歴に特記すべきことなく、身体所見では、眼瞼結膜貧血様、胸腹部、四肢に大小不同の紫斑を多数認める。肝脾腫は触知されない。
[末梢血検査所見]
WBC | 12500/μL |
Blast | 45% |
Myelo | 2% |
Promyelo | 2% |
Seg | 5% |
Stab | 1% |
Lympho | 43% |
Mono | 1% |
Eosino | 1% |
RBC | 137万/μL |
Hb | 4.1g/dL |
Ht | 12.1% |
MCV | 88.3fL |
PLT | 0.6万/μL |
Ret | 0.8% |
[骨髄形態診断]
骨髄は正形成、顆粒球系が優位で巨核球は著減している。中型、核網繊細、細胞質に微細な顆粒を有する骨髄芽球が全有核細胞(ANC)の73.6%を占めている。骨髄芽球にはアウエル小体を持つものもみられ、MPO染色は強陽性である。顆粒球系では、前骨髄球以降の細胞が10%以上を占め、低顆粒好中球、偽ペルゲル核異常などの異形成所見が認められる。
骨髄芽球の増加を認める。骨髄芽球は中型で、細胞質は好塩基性で一部空胞を有する。核網繊細、核小体は目立たない。顆粒球系には分化傾向が認められ、偽ペルゲル核異常や低顆粒好中球がみられる。単球系細胞にも若干の異形成を認める。
骨髄芽球は細胞質に顆粒と空胞を有する。好中球に偽ペルゲル核異常および低顆粒好中球を認める。
骨髄芽球の細胞質にアウエル小体を認める。
低顆粒好中球にアウエル小体を認める。
骨髄球にもアウエル小体を認める。
MPO染色は強陽性である。
[骨髄血細胞表面マーカー]
マーカー | 陽性率(%) |
---|---|
CD13 | 82 |
CD33 | 37 |
CD15 | 50 |
CD117 | 84 |
CD65 | 35 |
MPO | 94 |
CD34 | 79 |
HLA-DR | 96 |
[染色体・遺伝子検査]
[染色体]G分染法(PHA無添加24・48時間培養)
45,XY,add(7)(q22),t(8;21)(q22;q22),del(15)(q?),-16,add(17)(q11.2),add(19)(q13.1)[15]
46,XY[5]
[キメラ遺伝子スクリーニング]
AML1-ETO 390,100コピー/μg RNA
[FLT3-ITD]
検出されず
[解説]
8;21転座AMLは染色体・遺伝子異常から規定される病型であるが、形態学の面でも8;21転座AMLと推定できる特徴的な所見がある。8;21転座AMLの骨髄像では、type1、type2の骨髄芽球が混在し、長短さまざまのアウエル小体を有する芽球が散見される。顆粒球系への分化傾向を呈し、FAB分類では急性骨髄性白血病分化型(M2)に相当する所見をとる症例が多い。また、顆粒球系細胞における、細胞質の好塩基性の縁取り、偽ぺルゲル核異常や低顆粒好中球などの異形成、サーモンピンクの細胞質および核周囲明庭様領域も特徴的な所見である。本症例の染色体核型は一見複雑に見えるが、8;21転座にいくつかの付加的異常が合併した核型である。AML1-ETOキメラ遺伝子も検出され、キメラ遺伝子と染色体の結果に乖離はない。
[症例2]
15歳、男児。7日前より37度台の発熱と顔色不良が出現。2日前、突然視野欠損を認め、眼科を受診。網膜出血より血液疾患が疑われ、紹介受診。既往歴、家族歴に特記すべきことなく、身体所見では、眼瞼結膜貧血様、胸腹部、四肢に大小不同の紫斑を多数認める。肝脾腫は触知されない。
[末梢血検査所見]
WBC | 10100/μL |
Blast | 78% |
Seg | 2% |
Stab | 3% |
Lympho | 16% |
Mono | 1% |
RBC | 268万/μL |
Hb | 7.9g/dL |
Ht | 22.6% |
MCV | 84.3fL |
Ret | 0.4% |
[骨髄形態診断]
骨髄は軽度過形成で、顆粒球系が優位、巨核球は著減している。骨髄芽球がANCの69.0%を占める。骨髄芽球は中型から大型で、細胞質は好塩基性で微細な顆粒を有する。核形態は円形ないし楕円形でくびれを有するものがあり、核網は繊細である。一部にはアウエル小体もみられる。MPO染色は強陽性である。顆粒球系には分化傾向が認められ、前骨髄球以降の細胞が10%以上を占める。顆粒球系細胞に低顆粒好中球、偽ペルゲル核異常などの異形成所見が認められ、サーモンピンク色の細胞質を有する好中球もみられる。以上よりAML with maturationが示唆される。また、カウント外に肥満細胞が散見される。
骨髄芽球の増加を認める。骨髄芽球は中型から大型で、細胞質は好塩基性、核形態は円形ないし楕円形でくびれを有するものがある。核網繊細で核小体を有する。顆粒球系は分化傾向を示し、偽ペルゲル核異常、低顆粒好中球、2核の骨髄球がみられる。右下方には2核の正染性赤芽球もみられる。
骨髄芽球にはアズール顆粒と空胞を有するもの(右上方)もみられる。偽ペルゲル核異常を有する低顆粒好中球(中央)がみられる。
低顆粒好中球の一部はサーモンピンク色の細胞質を有する。
肥満細胞(中央)が散見される。
骨髄芽球はMPO染色陽性を示す。
[骨髄血細胞表面マーカー]
マーカー | 陽性率(%) |
---|---|
CD33 | 23 |
CD56 | 91 |
CD13 | 55 |
CD19 | 16 |
CD34 | 98 |
HLA-DR | 98 |
CD65 | 53 |
CD15 | 10 |
MPO | 96 |
CD117 | 85 |
TdT | 19 |
[染色体・遺伝子検査]
[染色体]G分染法(PHA無添加24・48時間培養)
45,X,-Y,t(8;21)(q22;q22) [8]
45,X,-Y,der(8)t(8;21)(q22;q22),der(11)t(8;11)(q24.1;q13),der(21)t(8;21)t(8;11)[1]
[キメラ遺伝子スクリーニング]
AML1-ETO 598,100コピー/μgRNA
[FLT3-ITD]
検出されず
[解説]
視野欠損から発見されたAMLの症例である。このように若年者で眼底出血(網膜出血)を認めた場合は血液疾患が疑われる。
8;21転座AMLの骨髄像には共通点とともに多様性もある。顆粒球系での分化傾向、好中球の偽ペルゲル核異常やサーモンピンク色の細胞質などは、8;21転座AMLに比較的共通してみられる所見である。
一部に肥満細胞や好塩基球の増加を認める症例があり、これらはc-KIT遺伝子異常と関連して予後不良とする報告がある。
細胞表面マーカーでは、CD13、CD33、CD117、MPOなどの骨髄系マーカーに加え、CD34、HLA-DRの未熟造血細胞マーカーの発現が多い。本症例の様にCD56を発現する症例もある。さらに、CD19などのリンパ系抗原を発現する症例もあるが、この場合も8;21転座AMLではmixed phenotype leukemiaとしない。
8;21転座AMLでは、本症例のような性染色体の欠失、さらにdel(9q)などの付加的異常がしばしば認められるが、MRC10解析ではこれらは予後に影響しないとされている。また、AMLの予後不良因子であるFLT3-ITD変異は8;21転座AMLで検出される頻度は少なく、検出された場合もその予後因子としての意義は不明である。
参考文献
- Miyoshi H, Shimizu K, Kozu T, et al. t(8;21) breakpoints on chromosome 21 in acute myeloid leukemia are clustered within a limited region of a single gene, AML1. Proc Natl Acad Sci USA 88: 10431-10434, 1991
- Miyoshi H, Kozu T, Shimizu K, et al. The t(8;21) translocation in acute myeloid leukemia results in production of an AML1-MTG8 fusion transcript. EMBO J 12: 2715-2127, 1993
- Kita K, Nakase K, Miwa H, Phenotypical characteristics of acute myelocytic leukemia associated with the t(8;21)(q22;q22) chromosomal abnormality: frequent expression of immature B-cell antigen CD19 together with stem cell antigen CD34 Blood. 80:470-7. 1992
- Arber DA, Carter NH, Ikle D,et al. Value of combined morphologic, cytochemical, and immunophenotypic features in predicting recurrent cytogenetic abnormalities in acute myeloid leukemia. Hum Pathol. 34:479-83. 2003
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